家庭の医学

肝臓病について(2)

ウイルス肝炎

肝細胞が肝炎ウイルスに感染すると、体内の病気を排除しようとする働き(免疫機構)によって、肝細胞自体も傷害されます。これがウイルス性肝炎です。
ウイルス性肝炎の原因となる肝炎ウイルスは、現在A型、B型、C型、D型、E型、G型の6種類が知られています。
その中でも日本に多いのは、A型、B型、C型で、各肝炎ウイルスはそれぞれ特徴がありますが、慢性肝炎をおこすのは、ほとんどB型、C型です。
ここでは、日本に多いA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎について述べたいと思います。

A型肝炎
A型肝炎ウイルスは、飲料水(井戸水など)や食物(主に生ガキ、貝類)からの経口感染でおこります。
感染者の便が、また新たな感染源となります。上・下水道の完備したわが国では、流行発症はほとんどみられません。
東南アジア、アフリカ、中近東への旅行者、あるいは長期滞在者は、感染の危険が非常に高いといえます。そのため、手洗いの励行や、生水を飲まない、野菜・魚介類を生で食べないなどの注意が必要です。
A型肝炎は、広範囲の肝細胞が壊れ、重症の肝機能不全になること(劇症化)はまれで、積極的に治療しなくても、慢性化(6か月以上の肝機能異常とウイルス感染が持続)することはありません。
症状が出現した場合は安静にして、栄養摂取に障害がある時は、輸液など行うこともあります。治癒後は、A型肝炎ウイルスに対し、無毒化し排除する物質(抗体)を得るため、二度と感染しません。
また、予防としては、γ-グロブリンやA型肝炎ワクチンの投与があります。
B型肝炎

B型肝炎は血液を介して感染し、分娩時あるいは、出産直後にウイルスをもった母親から感染 する母子感染(垂直感染)と、それ以外からの感染(水平感染)の二つに分けられます。
水平感染の中には、血液または血液製剤の注射や、汚染した針などによる刺傷、また性交渉での感染なども含まれます。水平感染では急性肝炎を発症しますが、慢性化することはほとんどありません。
垂直感染の患者、3歳以下での感染した患者が、キャリア(肝炎を発症せずに持続的にHBウイルスを体内にもつ個人)となります。
このキャリアのうち90%は、肝炎ウイルスが体内に存在しながらも、肝障害を起こしません。
残り10%のうち20%が慢性肝炎に移行します。それ以外は急性肝炎を経て、抗体(HBウイルスに対し、無毒化し排除する物質)を獲得することにより、肝炎の進行は終了するというわけです。

血液中にウイルス量の多い場合は、注意が必要なので、キャリアのいる家庭では、剃刀や歯ブラシの共有はさけるようにしましょう。
また、医療従事者による針刺し事故など、血液汚染が明らかな場合は、48時間以内に抗体(HBs抗体)を含んだHBグロブリン投与を行います。
また、同居者にキャリアのいる場合や感染の機会が多いと考えられる人は、3~4回のHBワクチン投与を行う方法もあります。

C型肝炎
B型と同様、血液を介して感染します。しかし、B型に比べて血液中のウイルス量は少なく、現状では、性交渉などによる水平感染は確認されていません。
以前は、輸血後に発症しましたが、現在は、輸血用血液のHCV抗体の検査をしますので、ほとんどおこっていません。
C型肝炎の場合、患者のうち約40%が急性肝炎のみで治癒し、残り60%が慢性化しますので経過観察が必要になります。現在、慢性肝炎患者に対してインターフェロンによる治療が行われており、そのうち20~30%治癒しています。
C型肝炎の予防については、現在確率された方法はありません。

アルコールによる肝障害

大量の飲酒を続けると肝臓が障害されることは、従来からいわれています。実際、世界でもワインの産地で、ワインの飲用が習慣化されている国々(フランス、スペイン、ドイツ、イタリアなど)では、肝硬変による死亡率も高くなっています。
一方、アルコール消費量の少ない国は、肝硬変による死亡率が低いというわけです。日本でも、アルコール消費量の増加に伴い、アルコールによる肝障害も増加しています。

アルコール性肝炎とは、常習飲酒者がなんらかのきっかけで、さらに飲酒量が増えると、重い肝障害をおこすことをいいます。
すでに常習飲酒によって、脂肪肝(肝細胞に脂肪が過剰にたまった状態)や肝線維症(肝細胞の周囲や血管の周辺に線維が多くなった状態)などの、なんらかの肝障害をおこしています。
なかには、非常に重症で、ほかの臓器にも障害を起こすなど、1か月以内に死亡する率が高い「重症型アルコール性肝炎」を起こすこともあります。また肝障害が長く続くとアルコール性の肝硬変となります。

治療としては、断酒が不可欠です。断酒以外の治療法はないといわれるほど、断酒が重要です。
とくにC型肝炎ウイルスの感染者は、常習飲酒に注意してください。従来アルコール性の肝障害とみられていた患者さんの中に、C型肝炎ウイルス・マーカー陽性者が多く見つかっています。

薬剤による肝臓病

薬剤によって肝臓に障害が起こるということですが、薬剤そのものの毒性が原因でおこる「中毒性肝障害」と、薬剤に対するアレルギー反応によって起こる「アレルギー性肝障害」の2つに分けられます。

中毒性障害は、薬剤そのものに毒性があるものは少なく一般には処方されませんので、一般の薬を大量に内服したり、長期間の服用で現れることがあります。しかし、薬剤による肝障害のほとんどがアレルギー性肝障害であると考えられます。

アレルギー性肝障害は、身体を守るはずの働きが過剰に反応したもの、例えば花粉症、アトピー性皮膚炎などのようなアレルギー性の病気と同様の反応です。
ある薬剤の服用により肝機能が障害されるという事で、人によって違ってきますので、どんな薬でもアレルギー性肝障害の起こる可能性はあるということになります。内服してから24~48時間後以降、時には1ヶ月以上たって症状が現れる時もあります。
症状には、食欲低下、吐き気、身体のだるさなどです。

また、アレルギー性の場合は、発熱、発疹、皮膚のかゆみなども起こりやすいものです。
治療としては、薬物が原因として疑わしい場合は、服用をただちに中止することです。しだいに肝機能が正常にもどります。
よって、日常の薬剤の内服には、医師に相談したり服用の量、方法を守り、内服後異変、違和感のある時はご注意ください。

また、現在飲んでいる薬剤や以前薬にアレルギー症状を起こしたことのある人は医師に告げる事も必要です。

これで、今回は終わりとします。
さて、3月、4月、12月は、別れ、出会いの時期。“酒は百薬の長”といいます。ほどほどにしておきたいものです。次回、いよいよ肝硬変、肝癌へと話は進んでいきます。

参考文献

厚生統計協会 : 国民衛生の動向、1999年

薄井坦子 : ナースが視る病気、講談社、1998年

池田健次、飯田裕子 : JNNスペシャル肝疾患ナーシング、医学書院、1997年

藤沢洌 : 肝炎の正しい知識、南江堂、1991年

一般社団法人日本肝臓学会 : 肝がん撲滅のために、1999年

堺 章 : 目でみるからだのメカニズム、医学書院、1998年

1 2