家庭の医学

肝臓病について(3)

肝硬変の症状について

まず「3つの肝硬変の基本的な病態」について説明します。

肝機能の低下
肝細胞が破壊されることにより、肝臓の機能的な大きさが減少します。働く部分が小さくなるために、アルブミンや血液凝固因子などの合成能力が低下し、アンモニアの処理などの解毒機能が低下します。これは、工場に例えれば、最大生産能力が減った状態です。注文が少なければ何とか間に合いますが、それ以上のものを要求されると応じきれなくなって破錠してしまいます。
肝血流の変化
肝臓に流入する重要な血管である門脈の血管がわるくなり、圧が高くなります。その結果、肝臓にいくべき物質が肝臓を迂回して素通りしたり、余分な血行路が生じたりと諸々の傷害がおこるわけです。
工場に例えれば、工場をめぐる物の流通が悪くなっている状態です。分解・加工の過程が混んでいるために原料が製品にならないまま出荷されたり、本来なら製品の運搬に使わない通路にまで製品があふれだし危険が生じている状態なのです。
網内系機能の低下
網内系とは、大型の貪食細胞が体内の特定の場所に分布し、細菌や異物を処理するしくみを指します。肝臓にある貪食細胞は、腸管から門脈を経由して、肝臓に進入する細菌などの異物をとらえる働きをします。大変重要なフィルターなのです。肝硬変ではこの働きが低下するために、感染症がおきやすくなります。
工場のたとえを続ければ、守衛がいなくなったので外部の人間が勝手に工場にはいってくるようになり、仕事に重大な支障をきたすような状況です。

以上の3つの病態が、肝硬変の諸症状と関係してくるのです。
次に諸症状についてお話ししましょう。

黄疸
老廃赤血球は処理されてビリルビンという物質になりますが、それが過剰に蓄積された状態をいいます。通常は軽度の黄疸のみです。急に増悪したり、いよいよどうにもならなくなったときには、黄疸は高度になってきます。つまり、黄疸の増強・急速な進行は急性増悪劇症化のサインともいえます。
浮腫・腹水
殆ど必発の症状です。主な原因として、肝臓の合成力が低下することによって血漿浸透圧が低下し、血管内に水分を保持できなくなった結果、血管外への水分の浸出が増えてしまいます。2つめには、門脈圧や肝表面リンパ流の圧が高くなって、リンパ液がリンパ外に露出することがあげられます。
肝性脳症
肝機能の低下に伴って起こる意識障害で、肝機能が回復したり誘因が除かれれば意識はもどります。原因としては、正常な状態ではたんぱく質の代謝産物であるアンモニアなどの有毒物質は、肝臓で最終的に処理されるのですが、肝硬変では処理速度が低下しており、体内に過剰となった有毒物質が中枢神経を侵すからだといわれています。
消化管出血
門脈圧亢進―――食道静脈瘤の形成―――破裂という筋書きです。ただし、肝硬変患者さんの吐血下血がすべて静脈瘤の破裂とはかぎらず、消化性潰瘍からの出血も多いとされます。
腹壁皮下静脈怒張
門脈圧亢進によって肝臓に入れなかった血液が、腹壁の皮下静脈にたむろするための症状です。
肝脾腫
肝臓は硬く腫大し、指で押してをふれることができます。門脈圧亢進によって脾臓も腫大します。
クモ状血管腫
門脈圧亢進を反映する症状といわれ、中心がややもりあがっており、そこから放射状にクモが足を広げたような血管による模様です。殆ど、顔面・頸部・前胸部に効発します。アルコール性肝硬変では特に目立つといわれます。
手掌紅斑
てのひらにみられる発赤です。特に親指と小指の付け根が赤くなります。
女性化乳房
肝硬変の男性(あくまでも女性ではありません)で、両側もしくは片側の乳房が腫大し、しばしば張った感じや痛みがでます。原因は、男性でも少量産生される女性ホルモンが、肝機能低下によって分解されなくなり、血中の濃度があがるためといわれています。
肝腎症候群
肝不全はしばしば急性腎不全を合併します。詳細はまだ不明なのですが、肝硬変に関連した機能的変化が原因と考えられています。残念ながら、末期の肝硬変に合併することが多く、予後はきわめて不良といわれています。
なお、本症の3大死因は肝不全・消化管出血・肝臓癌の合併とされています。

以上3つの基本的病態からでてくる主な症状10個をお話ししました。
前々回に、肝臓そのものの働きについてのべました。それを思い返すと、なるほど肝臓の働きを果たせなくなった結果が、これらの症状なのだと実感できます。みなさまどのようにお感じになられたでしょうか。

肝硬変の診断

以下、主なものをあげましょう。

肝機能検査
GOTとGPTはある程度上昇しますが、それほど高値にはなりません。肝細胞がどんどんぶちこわれていくわけではないからです。ビリルビンも通常軽度上昇します。高度のビリルビン血症を来たした場合予後不良といわれます。
他に、コレステロールは肝臓の合成能が低下するので低値。また、アルブミンの合成低下によって低アルブミン血症となります。血液凝固因子の産生が低下しプロトロンビン時間が延長します。
血液検査
脾臓機能亢進によって特に、血小板の減少が著明です。臨床的にはC型肝炎が原因の場合、13万/mm3以下に血小板が低下すると肝硬変の始まりであり、10万以下になると肝硬変は確実といわれます。ただし、B型肝炎やアルコール性肝硬変の場合は適用されないようです。
色素排泄試験
色素を静脈注射し、肝臓へのとりこみと排泄を調べる検査です。本症では、肝機能障害と肝血流量低下を反映し、色素はいつまでも血中に停滞しています。
画像診断
肝シンチグラフィ : 肝硬変では肝臓及び脾臓がこうもりが羽を広げたような形にみえます。
超音波エコー・CTスキャン
辺縁の不整や肝臓中の繊維化による斑点上の高エコーがみられます。
腹腔鏡検査
肝臓の表面を直接みます。肝臓の表面は本来つやつやであるべきですが、本症では凹凸でたくさんの結節を認めます。しかし、この検査は多少なりとも苦痛を伴い、入院も必要となってくるために、すべての患者さんに施行できるものではありません。

以上、主な検査内容を列記いたしましたが、決してひとつの情報があてはまったからといって、自己判断なされないことをお願いいたします。あくまでも専門医の診察をお受けになってください。

肝硬変の治療は?

肝硬変の治療は、臨床的に代償性と非代償性に分けられます。

代償性肝硬変
肝硬変症の進展を阻止、抑制することを目的とします。一般に社会生活を続けながら治療を行います。
  1. 疲れすぎない程度の運動、筋肉労働以外の就労を可能とする<医師に相談>
  2. 一日8時間以上の睡眠をとり規則正しい生活を心がけ疲れを翌日に残さない
  3. 食事は特殊な場合を除いてバランスのよい食事とする(減塩に心掛け高蛋白質とする)。鶏肉や魚がよく、豚肉や牛肉は避けたほうがよい。食後に休息をとる。30分から1時間は静かに休み、できれば臥床する。
  4. 安静をとる意味 : 安静により肝機能の低下を防ぎ、血液中の栄養分が肝臓に届けられ傷ついた肝臓の修復や本来の働きができるのです。
  5. アルコールは原則として禁止する
  6. 便通を整える
  7. 便秘を恐れる意味 : 便秘になると、腸内で腐敗・発酵した有毒成分<アンモニア>が余分に吸収され、血液によって肝臓に運ばれ、肝臓に負担となってしまうのです。一日1~2回の便通を心掛けられることをお勧めします。
  8. 薬物療法
  9. 定期的受診、検査、服薬などが継続できるようにする
非代償性肝硬変
基本的には肝血流量をふやし、障害された肝細胞の修復を促すことを目的とします。一般に入院をして治療します。
  1. 体の安静を障害の程度に応じて行う
  2. 薬物療法
  3. 食事療法(確実な減塩、蛋白制限食。時に、水分制限)
黄疸、吐血、下血、肝性昏睡などがみられる非代償性では、それぞれの病態に合わせて治療がなされます。そのため、食事をはじめ一人一人異なるかと思います。今回は、上記のように概説でご了承いただきますようお願いします。

最後に

本症は、慢性肝疾患のなれの果てです。除々に進行し、やがて死に至る病気であることに違いありません。といっても、5年生存率は50%以上なので、肝硬変と診断されても先はあります。
またご存知のように1997年わが国も漸く臓器移植法が試行されました。この件については、まだまだ難題があるかと考えますが、生命を維持できなくなってしまった方の「希望」になっているのではないでしょうか。

なにはともあれ、今ある命を大事に、今この時間を大切にしたいものです。そして、皆さん、体にやさしい、「肝臓さん」にもやさしい暮しをしていきましょう。

引用・参考文献

池田 健次、飯田 裕子 : JJNスペシャル肝疾患ナーシング、医学書院、1997

千代 豪昭、黒田 研二 : 学生のための医学概論、医学書院、1999

竹下 俊隆、成島 克彦 : 内科5消化器・アレルギー膠原病、医学評論社、1995

高橋 健一 : 体のしくみ全書病気編、東陽出版、1998

青木 萩子、延近久子 : EN看護学生版、4巻、6号、1995

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