家庭の医学

神経症(ノイローゼ)について(2)

神経症に含まれる幾つかのタイプについて

「心」というのは、本当に分からないものだけに、それが「病んでいる」というのは、一体どういう事なのか、漠然としており、不安になられる事と思います。
しかし、この社会では決して稀な病気ではなく、誰もがかかりうる病気なのです。実際、現代社会では、10人に1人は何かの形で「心の病」を抱えていると言われています。
前回、『状況次第で誰にでも起こりうる病気』として、ノイロ-ゼ(神経症)の概要を説明いたしましたが、今回は、その神経症に含まれる幾つかのタイプを、それぞれ説明していきたいと思います。

突然、激しい不安に襲われる

パニック障害

理由も無く、突然大きな不安に襲われ、それに伴い身体症状も現れる病気がパニック障害です。例えば睡眠中やのんびりテレビを見ている時などに出現する事もあります。
症状は、(動悸・頻脈)(息苦しさ・過呼吸)(「このまま死ぬ」という恐怖)の3つが最も多く、かつ典型的で、その他、(吐き気)、(めまい感)、(手足のしびれ)、(冷や汗)、などもみられます。
1回の発作は、普通数分か30分、長くとも1時間以内に自然に消失します。この発作が頻発して生活に種々の支障を生ずるものをパニック障害とよびます。

パニック障害がひどくなると、不安発作が起こるのが怖くて、電車やバスに乗れなくなったり、家から一歩も出られなくなったりする事もあります。また、「必ず体に病気があるに違いない」と病院を転々としたりする事もあります。
不安発作を起こす前に、体調が悪かったり、精神的ストレスを受けたなどの状況が引き金になる事はありますが、特に発生誘因となる公式のようなものはありません。

パニック障害は、女性に多く、また青・壮年期に多いといわれています。性格的には特に偏りも無く、温和、多少小心な点があり、危険や人との衝突に対して敏感であるといった共通点が見受けられます。

慢性的な不安が続く

全般性不安障害

前述のパニック障害は、不安発作を起こすのが特徴ですが、不安発作ほど明確な症状が出ないにしても、慢性的に不安な気分、身体的な不安症状があるものを全般性不安障害とよんでいます。
例えば「初めて学校に登校する時」「人前での発表」「自分や家族の病気」「試験」「老後の経済」など、人生の様々な不安を敏感に受け止め、深刻に悩むタイプです。
精神症状として「何事にも極端に敏感になり、常にビクビクしてしまう」「何となく落ち着かず、じっとしていられない」「漠然と不安を感じる」「物事に集中できない」といったものがあります。

これらの精神症状とともに起こる身体症状としては、動悸や息苦しさ、発汗、吐き気、口渇、下痢、身震い、頻尿などの症状があげられます。

そういう点から、前述の試験前やスピ-チの前に多少眠れなかったり、胸がドキドキするといったレベルとは、全く違うという事がおわかりいただけると思います。
逆に神経症は、内因性の分裂病や躁うつ病などとも違います。素人には、判別することが非常に難しいものですが、専門医がきちんと総合的に診察すれば診断がつきます。

軽いうつ状態が続く

抑うつ神経症

うつ病よりも軽いうつ状態に陥る神経症を抑うつ神経症といいます。人生には、病気を含めて様々な不幸が起き、失意や悲しみ、口惜しさにくれる日々がありますが、その時人は、憂うつになり、意欲を失い、言葉も笑いも少なくなります。
その憂うつが、当人の元来の性格、失意に至る事情、周囲の状況、将来の見込みなどから、十分によく了解でき、かつ事情の変化や本人の決心、周囲の援助などによって明らかに軽快するならば、神経症の抑うつ状態とみなす事ができます。

但し、同じような症状が起こるうつ病とは、多少の違いがあります。
例えば、うつ病と比較して思考や行動の抑制が軽く、「自分は取り返しのつかない事をしてしまった」とか「不治の病にかかってしまった」などの妄想をいだく事はありません。
自分を責めるよりも、かえって周囲の人や環境のせいにして、周囲を攻撃します。
また、朝早く目が覚めてしまうとか、夜中に何度も目が覚めるといった、うつ病特有の睡眠リズムの乱れもみられませんし、朝、調子が悪く夕方にかけて調子が良くなるといった1日のリズムの乱れもみられません。
抑うつ神経症では、その他、強迫症状や不安症状、ヒステリ-症状などを伴う事が多いのも特徴です。

抑うつ神経症の場合、本人の性格が病気の発病に関わっている事が多いものです。
元々、甘えっ子で、依頼心が強く、自分に自信が無く、少しの事でクヨクヨ悩む、調子の良い時は頑張るけれど、大変になると投げ出し、周囲に責任を押しつけるといった傾向がみられます。
その結果、学校、職場での人間関係がこじれやすく、それがまた大きな悩みになります。

自分は病気だと思い込む

心気症

心気症というのは、自分の体の調子に常に注意をはらって、わずかな不調をとらえ、病気でもないのに病気であると思い悩む事をいいます。
心気症の患者さんが訴えてくる主症状は、倦怠感、動悸、不眠、頭痛・頭重感、肩凝り、めまいといったものです。

こういった不調にとらわれ病院を受診しますが、検査結果の上では異常が認められません。
しかし、本人は「何か重い病気が隠れているのでは」と疑いを強め、その結果、次々に病院や医者を変えたりします。

日常生活においても、自らの体調にとらわれるあまりに、その他の事に対するあらゆる興味が無くなり、行動範囲や人間関係がどんどん狭くなり孤立していきます。

無意識の心理状態によって起こる

解離性障害・転換性障害(ヒステリ-)

ヒステリ-というと、普通は女性が自分の感情を抑制できずに、当たり散らしたりする状態の事をイメ-ジするかと思います。例えば「あの人は、ヒステリ-がでている」などと表現したりする事もあります。
しかし、医学的な意味でのヒステリ-というのは、これとは全く違い、本人自身が気づいていない「心のゆがみ」が原因となって突然、運動機能や感覚機能、意識などに障害を起こす病気をいいます。

運動機能や感覚機能など身体に障害が起こるタイプを(転換型)、意識や人格などに障害が起こるタイプを(解離型)とよんでいます。
ヒステリ-の症状は、人の見ていない所や危険な場所ではおこりません。
更に、無意識ながら病気になる事で悩みから逃げる事ができたり(疾病逃避)、周囲の同情が得られたりするという利点(疾病利得)が、病気の動機につながる事があります。

ヒステリ-は、ギリシャ語の「子宮」から由来しており、かつては確かに女性だけに起こるものと考えられていました。
しかし、最近では少ないながらも男性にも起こる病気である事が分かってきました。

転換型ヒステリ-の場合、立てない・歩けない、声が出ない・物が飲み込めない、足が麻痺している、などの運動機能障害以外に、全身のけいれん発作を起こしたりもします。
但し、てんかん発作と違い、呼吸停止によるチアノ-ゼはみられず、発作の時間も数十分から数時間と時間が長いのも特徴です。

また、発作の際に、体を弓なりにそらす(後弓反張)、周囲の反応に影響される(演技的)、不規則で多彩なけいれんが認められるのも、ヒステリ-性けいれんの特徴です。
感覚障害としては、「皮膚の感覚が鈍くなったり、逆に過敏になったり、痛みが出たり」する事があります。
視力にも異常が出て「視野が狭くなる、視力が落ちる」といった症状がみられ、場合によっては、完全に物が見えなくなる事もあります。

その他、頭痛・腹痛、吐き気・下痢、めまい、全身倦怠感、発熱・冷汗・動悸などの症状がみられます。
これらの転換症状が、非常に誇張的、演技的な感じでみられるのが、ヒステリ-症状の特徴の一つです。
本来なら、まとまっている人格が分離してしまう事を「解離」といいますが、その解離現象が強く出るヒステリ-を解離型ヒステリ-といいます。

解離型ヒステリ-の症状は、以下のようなものです。

  1. 意識がもうろうとしたり、夢遊病者のように歩き回ったり、無表情になって、呼びかけにも反応せず、焦点も定まらなくなったりします。
    数日から数ヶ月間に渡って行方不明(遁走)になったり、その間の記憶がなくなる(健忘)事もあります。
  2. 実際には、痴呆を起すような脳の疾患はないのに、簡単な質問(氏名や計算など)を間違えたり、答えられなかったりします。
    また「小児症」といわれますが、幼児が話すような幼稚な話し方をする事もあります。
  3. 同じ人物が2つ、あるいはそれ以上の人格を持っているものを多重人格といいます。
    ひとつの人格に支配されている間には、他の人格を忘れてしまっているのが普通です。

不必要な考えや行動にとらわれる

強迫神経症

強迫神経症とは、自分では無意味な事だ、ばかげている事だと分かっているのに、ある考えや行為にとらわれて、やめる事ができない病気の事をいいます。
打ち消しても打ち消しても浮かんでくる、この想念を「強迫観念」とよび、やめる事ができない行動を「強迫行動」とよんでいます。

例えば、ガスの元栓や戸締まりが気になって何回も確認したり、「手が汚い」という思いから繰り返し手を洗ったりする行動があげられます。
このような強迫神経症には、ある一定の性格傾向の人がなりやすいといわれており、完全欲が強い、潔癖症、頑固で適応性に欠ける、優柔不断などの傾向を持つようです。

最後に

2回に渡り、ノイロ-ゼ(神経症)について説明させていただきましたが、御理解いただけましたでしょうか。
最初に述べましたように「ノイロ-ゼ」という言葉そのものが、精神障害全般をイメ-ジするような形で独り歩きしていますが、実際には「神経症」を意味していたのです。
その神経症にも幾つかの種類があり、更には精神病そのものを細かく分類すると膨大な数になります。

現在のストレス社会に生きる我々も、いつどこで精神疾患に罹患しても不思議ではないのです。
但し、今後、生活していく中で病気の正しい理解、予防や対応策を知識として理解しておく事は大事かと思います。
その参考としてこの『家庭の医学シリ-ズ』が少しでもお役に立てれば幸いです。

参考文献

「心の病、その精神病理 大原健士郎 編」

「専門医が語るよくわかるこころの病気 遠藤俊吉、森隆夫 編」

「心の病の治療ポイント 平井孝男 編」

「精神病 笠原嘉 編」

「心理学キ-ワ-ド 田島信元 編」