家庭の医学

呼吸器について(1)

呼吸を整えるしくみ

呼吸を意識する、しないにせよ、人の酸素の必要量を感じて呼吸のシステムを動かすのは、やはり脳であります。呼吸の指令塔は、頭の後ろの下あたりに位置する脳幹と言う部分にあります。
ここで『呼吸をしなさい』と、意識してなくても命令されて、呼吸は行われています。
脳幹は、生命維持に必要な多くの指令塔が集まっている大事な部分であります。ここに集まる多くの指令塔は、外からの刺激や内からの様々な刺激に対して反応し、お互いの指令塔が手を取り合い助け合い、また反発しあいながら、呼吸を整えているのです。
時には、血液中の酸素が不足し、血圧が高くなったり、また精神的作用によってもこの指令塔は敏感に感じ取ります。そして呼吸回数や深さを整えているのです。

では、次にその刺激になるものをもう少し整理して、説明していきたいと思います。

キーポイント
  • 脳幹(呼吸の指令塔)

まず呼吸は、年齢によっても大きく異なります。子供と大人の肺の大きさが違うのはもちろん皆さんもおわかりだと思いますが、肺も年をとることにより、固くなって膨らみにくくなります。
そして1回の呼吸に対して、酸素が多く取り込めなくなります。だから運動をすると、若い時よりすぐ息切れがするのはそのためです。元気だと思っていても、階段の上り下りで息切れがしていませんか。まだまだ若いつもりでいても肉体は確実に老化しているのです。使用しないとなおさらと言えますね。

また体格にもより、肥満している人は脂肪の分だけ栄養がいりますので、酸素も必要となります。その上、大きな腹部により常に胸の部分が押し広げられている状態にあり、呼吸の運動は横隔膜だけで行わなければならなくなります。つまり胸式呼吸といわれるもので、そのため非常に努力して呼吸しなければ行けません。

そのほかに、呼吸をつかさどる筋肉の運動や肺に流れる血液の量を左右する身体の位置によっても大きく違いがあります。立ったときや座った姿勢が一番良く、寝ている姿勢が最も悪く、肺から酸素を取り込むために必要な小さな肺の部分が体重や重力に押しつぶされて、うまく働かなくなります。
そして、環境の気圧や温度にも左右されますし、運動はもちろん、怒ったり泣いたりした時や、入浴や睡眠によっても大きく変動します。何気ない呼吸ですが、無意識に身体はうまくコントロールされているのですね。

異常なときに現れる身体の状態

呼吸がおかしいなと考えられる場合は、多くのものが上げられます。皆さまがごぞんじのたんでさえそのおかしな状態の一つに数え上げられます。
これからおかしな呼吸の代表的な病気をあげて、説明をしていきたいと思いますので、難しい言葉もあるとは思いますが、さらに読み進めてみてください。きっとこの章が終わる頃には、呼吸についてものしり博士になっていることでしょう。

せきやたん

風邪に懸かった時、よく出るのがせきとたんですが、せきは空気の通り道に入った普通と違う物を排除しようとする身体を守る反応なのです。
しかし、胸やのどの病気の時に現れるものとしてせきが見られる場合には、問題になることが多いです。
せきを引き起こす主な原因には、空気の通り道や肺の病気のほかに、けむりを吸い込むことや、物が詰まることから心理的なものまで多くの原因がみられます。

たんは空気の通り道からでる分泌物であります。元気な人の空気の通り道からの分泌物は、さらさらした半透明なものであり、量も少ないのです。だから人は、たんとしてまず自覚することはあまりありません。
しかし、空気の通り道に何らかの原因で傷がついたり、赤くなったりしますと、空気の通り道から出る身体を守る液体が増え、白色の泡のようなものや化膿したようなねばねばの強いものとなります。色も黄色から緑色にかわり、特有のにおいを発して初めてたんと本人が自覚するのです。

喀血
呼んで字のごとく、血液を含むたんのことでありますが、空気の通り道または肺から血液がみられ、必ずせきとともに血液が一緒に出されますが、これを喀血と呼びます。血液の量が少なく単に混ざる程度のものから、多量に血液を流すものまであります。
チアノーゼ

チアノーゼとは、ギリシア語の『青』からきています。普通では赤みがかって見える皮膚の部分が、青紫色に変色することを言います。これは皮膚の小さな血管を流れる血液が過度に暗色を帯びるからです。つまり血液が、酸素をいっぱい含んでいるときは赤色をしているのですが、この酸素がなくなると色が暗くなり、薄い皮膚の場所ではそのまま暗く見えます。

もちろん酸素不足に必ずチアノーゼが現れるわけではなく、寒気や冷水にさらされることによって、手や足などのような心臓より遠い小さな血管が収縮して起こりうることもあるのです。

胸痛

一般に『胸の痛み』といっても、痛みを発する基となる場所によって痛みの程度も種類も違います。皮膚などはそのものに痛みを感じる神経がとおっています。だからそれに基づく胸痛は、多くは原因をはっきりすることができるのです。
しかし内臓の病気は皮膚と違い、本来痛みを感じる神経が無い臓器に、何らかの原因で障害がおきるので痛みを感じないはずです。しかし、その内臓の近くを通る痛みを感じる神経まで刺激されて、痛みを感じるのです。
呼吸の病気の場合は、肺に痛みを感じる神経はありませんが、その近くを肋間神経と言う痛みを感じる神経が刺激されて痛みを感じる場合が多いです。

これが、胸痛というのです。この痛みも実に様々な形があります。激しい鋭い痛みから肩に向かって抜けるような痛み、焼けるような痛みなどその病気特有の痛みがあります。痛みの種類によってどの部分が侵されたのかおおまかに分かることがあります。


以上が呼吸に対する大まかな基礎知識であります。難しい言葉も出てきましたが、呼吸とは何なのか少しは分かっていただけたでしょうか。
次回は、具体的に呼吸の病気に対してどんなものがあるのか説明していきたいと思います。

引用・参考文献

日野原 重明 : 呼吸ケアマニュアル

田中 健彦 : JNNブックス 呼吸器疾患ナーシング

稲田 豊 : 呼吸管理ハンドブック

大橋 敏之 : 呼吸器疾患患者の看護

1 2