Dr.エンドーのガッテン講座

講座その8:大豆の効用(1)”土からとれるお肉”と牛肉の関係

大豆タンパクのはたらき

ここで、ふたたび大豆に話をもどして、一回目のおはなしをしめくくります。

ほかの豆に比べて大豆にどうして豊富なタンパク質がふくまれているのかという疑問は、以上でおわかりになったのではないでしょうか。
ポイントは空気中の窒素(N)をとりこむことです。タンパク質の中に様々なからだに良いものがふくまれています。

こうした大豆タンパクは、調理されることによってはじめて消化管内で消化、吸収されて自分自身のからだのタンパク質につくりかえられます。
そればかりではなく、消化管内ではたらく大豆由来の酵素タンパクもあります。また小分子のポリペプチドは吸収されて、生理活性ペプチドにもなるでしょう。

ひとことで大豆といいましても、栽培されている土地の土質によって成分内容が驚くほどにことなります。
特にタンパク質とひとことでいいましても、構成されるアミノ酸は約20種類あります。
食べ物としてとるべきアミノ酸の内容が土質に深くかかわってきます。
ということは、空気中の窒素だけでなく、肥料中のアミノ酸の内容を工夫することで、上質のアミノ酸内容の大豆を作り出すことが出来るのです。大豆タンパクの改良につながることです。

こんにちの大豆と江戸時代の大豆をもし分析できるとしましたら、タンパク質のアミノ酸内容はかなりちがっていることが予想されます。
江戸時代の庶民のタンパク源はおそらく主に大豆だったと考えます。
大豆と主食だけで生活することができたということは驚くべきことです。
江戸時代の人々は平均寿命が短くて体格は貧弱だったと反論される方がおられるかとおもいます。

後者はたしかにそうかもしれません。
しかし、前者は抗生物質の恩恵のあるなしが、大きく左右する要因であって食べ物の内容ではありません。人生50年という平均寿命ということは、ほとんどの人々が50歳で死んだということではありません。
たくさんのこどもが疫病にかかり成人できなかったことが、成人後の平均寿命の数字を引き下げてしまった結果の数字です。
大豆タンパクがいかに大きな力だったかと感ずる次第です。

また、こんにちでも禅宗のお坊さんは肉食されないとききます。お寺の調理をされる典座さんのおはなしですと、タンパク源は大豆だそうです。
数百種類の大豆料理の献立があるくらいに大豆を利用しているようです。それでも皆さん恰幅がよろしく、健康そうにみえます。

今回はタンパク質にしぼっておはなししてきましたが、植物エストロゲン、脂質成分、遺伝子組み換え大豆などについて大豆シリーズとしておはなししていく予定です。

*(註):植物は窒素化合物の栄養素によって硝酸系とアンモニア系とに大別されます。この点でも、大豆は興味深い植物で、窒素化合物を肥料に加えると窒素固定のはたらきがおさえられてしまいします。

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